2023年11月17〜19日 喜宝園展示場にて
2013年11月、第1回「諸星フミ創作寄せ植え展」が教室生はじめ多くの喜宝園ファンの後押しにより開催されました。1年の休みを経て2017年からはご主人利夫氏との二人展として一歩一歩歴史を刻み、昨年11月に記念すべき10回展を迎えました。
「その都度大変な思いをしますが、たくさんの人たちが応援してくださるお陰でここまで来ました。遠方からも見に来てくださり、ここでしか味わえない作品だからと言ってくださるのが何よりの励みです。」とフミさん。
「新しい種類での寄せ植えや、より自然な飾り方にもトライしようと、いろいろ構想を練っています。こんな楽しいことはありませんよ。まだまだ続きますのでご期待ください」と利夫さん。
自然の味わい、持ち込みの古さにこだわる諸星夫妻 熟練の作品をご覧ください。
喜宝園 埼玉県所沢市下安松331 Tel.04-2944-0955
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カワラヨモギ 30㎝
オトギリソウ ヒメツキミソウ 17㎝ 鉢:三代兼吉
絶妙なゆすりで枝を下垂させるカワラヨモギ。葉を落としはじめた秋色の色彩も見どころである。本種は亜低木でもあり、木質化した茎の動きが味わい深い。実際には、立ち上がった状態で植えていたものが風で倒れてしまい、植え替え時にその形を生かして半懸崖の盆栽風に仕立てられた。偶然の産物ではあるが、そこに着目するのはさすが。添えは何気ないが持ち込んだ逸品。残念なのは、温暖で夜の冷え込みがなく、ヒメツキミソウの葉に赤みがこなかったこと。
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ノガリヤス ワレモコウ 白花リンドウ ノコンギク タカトウダイ 128㎝
鉢:三代兼吉
渾然一体。背の高いもの、低いもの、スッと伸びるもの湾曲するもの、さまざまな植物が混ざり合って調和する。植え込む際の未来予想図は、持ち込みの年月によって次第にイメージに近づくが、それでもその年の気候などにより、毎年異なる姿になるのがまた面白いところ。特に寄せ植えではそれが顕著で、本作品でもスゲ類に押されて数年前までは目立っていたタカトウダイが消えそうになっているという。今年の見どころは、ノガリヤスの勢いを抑えるかのような、白花リンドウの役どころだろうか。
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アブラススキ リンドウ ノコンギク スイバ リュウノヒゲ
ワレモコウ 金華山ススキ ヒメアブラススキ
アカバナ 120㎝ 鉢:三代兼吉
本来こちら側は裏面、アブラススキが手前から立ち上がっている。真っ直ぐに立つ中央の1本と右に倒れたヒメアブラススキを切ると全体が締まってバランスもよかったが、ここはあえて自然らしさ優先で残し、暴れ気味とした。まとめすぎずに晩秋という崩れゆく側面を表現したという、奥の深いところである。スイバの大きな葉はまだ色づかず、常緑のリュウノヒゲも目立ち、晩秋の雰囲気が削がれると思われるかもしれないが、展示会全体としては常緑種や緑が多く残るものも、変化をつけるのに必要で逆に新鮮でもある。
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黄実ズミ 74㎝ 鉢:和丸
残された実に晩秋を感じる。樹はいったん左へと立ち上がり、全体は右へと流れ風を感じる樹形。自然界でも風の強い斜面などではよく見られる姿である。枯れそうな木を譲ってもらったというのが7〜8年前、培養しながら当時は左側にも多くの枝があったものを切り込んで右流れに改作。針金はいっさい使わずハサミだけで作ってきたもの。盆栽では忌み嫌われる交差枝や逆向き枝も使う。そこに自然味が生まれるからだ。もちろん普段は基本にのっとった盆栽も作るのだが、山野草と一緒に飾る樹はこういった趣のほうが会場全体が落ち着くのだという。
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マツバタイゲキ 20㎝ 鉢:三代兼吉
緑〜黄〜橙色の、細く淡くなだらかなグラデーションが美しい。花時はもちろんいいのだが、季節ごとの姿を楽しめるのも生きている植物のいいところ。特に山野草はその魅力に溢れていると言っていい。マツバタイゲキの底力を見る思い。他にもこうした魅力を秘めた山野草、たくさんあるに違いない。
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イソギク 23㎝ 鉢:三代兼吉
いい出来である。センター後方が高く、右下には泳ぎ出しの2茎。抑揚がありまとまりもよい。何より茎に太い細いの差があるのが秀逸。かなりの年数を刻んでいることの証である。鉢の力も借りて、風格の滲み出る草ものに仕上がった。ただし前回の植え替えから5年経過し、根はもういっぱいいっぱい、来年は絶対に植え替えないと枯れる恐れもある。
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ホザキマンサク 48㎝ 鉢:三代兼吉
前出のズミ同様に、草と一緒に飾る樹木盆栽は、いわゆる盆栽然としたものではなく、自由な雰囲気を持ったものが相応しい。この樹もそう。普通は立性の本種だが、交差枝、同所から2本出ている枝などを使い、ハサミだけで全体をまとめている。それもやはり持ち込みがあってこそ、この木が手元に来て15年、一貫したその姿勢で木づくりをしているからこそ飾れるのである。右下の跳ねた枝など最高である。
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ヒメアブラススキ テンツキ 74㎝ 鉢:三代兼吉
ヒメアブラススキが、びっしりといっぱいになっている。ところどころテンツキが出て、ぎゅっと詰まって、いい色を出している。「足元をもっとすっきりさせたほうがよい」という声があるのは作者も重々承知している。しかしそうすると諸星フミ流ではなくなるし、がっかりする山野草愛好者がたくさんいる。これは作者なりの自然味、野生味の表現。もちろん植えつけから数年でこの味わいは出せないし、適切な植え替えを繰り返して生まれる姿である。細く、細かく、圧倒的な晩秋がここにある。線香花火のような無数の果穂が美しい。
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トダシバ 金華山ススキ ワレモコウ ノコンギク
キジムシロ 90㎝ 鉢:三代兼吉
今回、寄せ植えの紅葉の色を出すのに苦労したという中で、赤色が目に留まった作品。キジムシロの葉色を出すために、日に当たるよう、夜は霜に当たるよう、鉢回しをしたり鉢を移動したそうだ。例年は自然任せでそんなことはしないのだが、今夏の猛暑でいい色が期待できなかったため。この赤色は努力の結晶。ノコンギクの白さも効いて、華やぎのあるひと鉢に。
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タンチョウソウ 13㎝ 鉢:三代兼吉
1週間前は真っ赤な色づきが素晴らしかったそう。残念だが展示会の宿命、またの機会に拝見したい。それでもタンチョウソウにしては充分な色づき、毎年必ず鮮やかな色彩になるそうで、どうせならこうした性のよいものを手元に置きたいものである。
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トダシバ オトギリソウ 120㎝ 鉢:三代兼吉
今回の大型作品の中ではすっきりとした仕上がりに。それは早くに枯れ葉が落ちてしまい、いったん掃除をしたうえで、8月に飾る前提で不要な葉を整理したため。ちなみに喜宝園では飾る可能性のある鉢は展示の2か月前にかなりの掃除を施している。その上で飾る直前に意識することは、作為的にならないよう、あまりきれいにしすぎないこと。本作品の持ち込みは20年以上、薄い鉢にぴたっとはまり、鉢際から根茎も現れて古さが滲む。渋い錆色の葉色も目を惹き、わずかに残る緑色と飛び込みのオトギリソウの黒ずんだ実の色彩がアクセントになっている。
(この記事は、発行できなかった「趣味の山野草 2024年2月号」からの抜粋です)
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