山野草樹会 作品集

 

 自然の風景を感じさせ、時の流れを演出する 




 山野草樹会(1995年発足)は「山野草や雑木の寄せ植え盆栽」の知識・技術を学ぶ愛好会です。主な活動は年10回(1・8月を除く毎月1回)の定例会で、各自作品を持ち寄り、よりよい姿とするために意見交換を行い、実際にハサミを入れるなど実践的な講習会スタイルの中で、作品の見方・考え方、せん定や植え替えの方法などを学んでいます。そのうち年3回は作品撮影にも時間を費やし、その映像をホームページに公開しています。

 近隣の山草会からは、山野草樹会の作品はどこかが違うと評判を博していました。しかし年2回の展示会はコロナ禍および会場の都合により残念ながらここ4年間は見送られていました。現在新しい会場を探しており、再開が待たれるところです。

 ここでは公開された2023年6月・10月の作品を任意にピックアップし、山野草樹会らしい席飾り、山野草、雑木の表現方法を、どこかが違う何かを考察します。


解説:山野草樹会会長 小林 均  撮影:岩下由紀子


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穏やかな里山散歩 小林 均


ニホンカマツカ ヒメアブラススキ ノギク  鉢:大竹慎一郎 高さ52㎝
右:シコクギク ヒメノガリヤス  鉢:大竹慎一郎
添え:ホトトギス スズメノヤリ  鉢:中村是好

里山の中に入り散策中に見渡した情景。里山にも地形の変化はあり、それぞれに異なる草木を配した穏やかな世界を表現。ニホンカマツカは手元に来ておよそ30年、立ち上がりの一曲が見どころ。背負っているようなヒメノガリヤスも山野草樹会らしい自然の表現。



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安定感より少しの危うさを 小林 均


テリハノイバラ ヒメノガリヤス  鉢:石川たか子 高さ40㎝
添え:クロニガナ キシュウオギ コブナグサ

川辺のノイバラ自生地のイメージを2鉢で再現してみた。テリハノイバラは持ち込み12年、株立の各幹は自重でたわみ、それは年月の重みでもある。斜面の表現でもあるため、添えは左に配し、不安定さを演出。右に配すと安定感が生まれ平坦なイメージになってしまう。



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異なる3種の共同体 太田敬子


チガヤ ウツボグサ ノコンギク  鉢:さや鉢 高さ60㎝

湿原の木道で足元に見た風景を思い出す。持ち込みはまだ4~5年だが、ここまでまとまっているのは植え方のうまさ。大中小、高中低、葉の形状も伸び方も異なる3種は、植えつけ時の位置関係が的を射ている。不等辺三角形の仕上がりと相俟って、動きと風情が備わった。何より開花したウツボグサの花が効いている。



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空間を生かした寄せ植え 太田敬子


イソノキ 高さ89㎝  添え:ヤグラオオバコ チドメグサ

主木は種類的にも珍しく、少ない枝数・葉数で安心して見られる樹。すっきりと立ち、何より空間が生きている。実は、4年前に同じ素材の2ポットを寄せて合体させたもの。それにより足元に安定感が生まれ、深みも増した。添えは素朴な草で、素敵な主木をさらに大きく引き立てている。



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大胆な植え付けで流動感を 森 美枝子


ホザキナナカマド ダイモンジソウ 55㎝  添え:ヒメシロネ他

右に大きく傾けた植えつけが成功した。子幹は差し枝状となり、各枝も浮いて見えるほどに躍動的となりそれが見せ場になっている。添えは強い角鉢なので、右に配すると全体に安定しすぎてせっかくの樹の流動感が止められてしまっただろう。左に配し、流れを強調する席となった。



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葉色と鉢色の優しいグラデーション 森 美枝子


中国オオバヅタ 上下90㎝  添え:クサイ

葉の大きな本種のような落ち枝には、葉をつけすぎないのがコツで、すっきりと落とすこと。この写真くらいがちょうどよい。また、鉢の色、模様が、葉色とグラデーションとなって同調しているのも好ましい。統一されたトーンとなって優しさがいっそう加味された。



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ひとつひとつの花をしっかり見せる 藤森寛子


テイカカズラ 鉢:大竹慎一郎 上下52㎝
添え:チゴザサ 鉢:大竹慎一郎

花ものの仕上げ方は、花数が多ければしっかり間引いてひとつひとつの花を浮き上がらせたい。空間を作り、樹形もしっかり見せたい。また、株立は各幹の長さにすべて差をつけ、長短を作りたい。本作品はそれらをクリアし、風情、優しさを感じさせてくれる。



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長短をつけ、異なる密度に仕上げる 藤森寛子


サクラタデ ヤタケ  鉢:鴻陽 高さ89㎝  添え:メイゲツソウ

主草は2種共にも直線的な素材を、そうは感じさせず立体的に優しく作られている。サクラタデには長短があり、それぞれ不安定さを伴いながら伸び上がり風情が滲む。ヤタケも密度に差を作り、より自然さを表している。飾る前に、間引き作業という引き算をしっかり行った結果であろう。鉢こぼれの根茎もまた持ち込みの証として魅力のひとつである。



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不安定さに応じた葉の量とは? 岩下由紀子


ナラガシワ トウバナ スズメノヤリ  鉢:自作 高さ45㎝
添え:ハルガヤ ノコンギク ヒメタデ  鉢:自作

倒れるように右に流れる主木。こうした樹形は、旺盛に葉を茂らせることはないため、飾る前に半分ほど葉をカットして、見た目の重さのバランスを整えた。加えてアイアンの飾り台も不安定な用い方とし、主木とのラインを一体化している。添えを左に配し、さらに流れを強調する手もあったが、ここでは右に配して穏やかさを加味し、里の川岸のイメージとした。



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植えつけ角度と落ち枝との関係 岩下由紀子


アメリカヅタ ヒメカンスゲ  鉢:自作 上下36㎝
添え:タチツボスミレ ヒメタデ  鉢:自作

若い樹なので植えつけ角度は現状で適切であり、弓形の落ち枝も実なりの空間を確保し全体のまとまりもよい。次の植え替えでは将来を考え、植えつけ角度をぐっと上げて樹冠を作りたい。そうすることで落ち枝は強調されて動きも生まれ、樹格は年々向上していくだろう。



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若樹はシンプルに 國則美子


コナラ 野菊 コミカンソウ 高さ32㎝  添え:メリケンカルカヤ ヒメタデ

このように若い樹は作為に頼らずシンプルに植え込むのが得策。そうすることで素材のよさを引き出し、優しさを表現しやすい。そこで飾る前に葉を1/3ほど間引いてすっきりさせ、卓もシンプルなもので同調させた。添えも当初はカルカヤが3本だったが1本とし、丈も抑えて調和をとっている。



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変わり鉢を生かす 國則美子


ダンコウバイ ホトトギス  鉢:大竹慎一郎 高さ74㎝
添え:チゴザサ チドメグサ

傾斜のある変わり鉢だが、通常は高いほう、もしくはセンター付近に植え込むことが多く、その場合は安定感を演出できる。ここでは低いほうへ植え、あえて不安定を演出。実際には浮いた感じでちょっと洒落た感じにもなり、変わり鉢と植えつけ位置の関係の面白さをいろいろ考えさせられた。


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横へ伸びる茎を下垂させ懸崖に 小島博子


クマノギク 鉢:自作 45㎝  添え:ネジバナ マンネングサ
コガネシダ 鉢:自作

這性のキクを長く伸ばして下垂させている。普通の飾り方ではだらしなく切ってしまうところだが、高い位置に飾ると葉は厚く照り葉で美しく、目から鱗だった。クマノギクは別名ハマグルマ。ネコノシタの別名もハマグルマだが別種であるので混同しないよう。


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形や色を効かせた一席 小島博子


カゼクサ ヒメクグ ユメノシマガヤツリ  鉢:自作 50㎝ 
添え:ヒメタデ  鉢:自作 

公園の片隅や道端などさまざまなイメージが湧き起こる作品。何気ない魅力のある寄せ植えは、親しみやすさに溢れている。細やかなカゼクサの中にぱっちりと浮かぶユメノシマガヤツリは、格好のアテンションゲッター。添えのヒメタデはその動きと色彩で、席に伸び伸びとした明るさを加味してくれた。


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見せ場を作り出す 大藤久美子


ナンジャモンジャ コメガヤ 高さ39㎝ 添え:ホソバノギク スゲ

かつて平凡な弓形だった左の枝を数年前にカットし、変化をつけた作品。枝の際で切るとコブができたりするので少し残し、自然に折れたかのような彫刻を施している。完全に肉巻きしたら際まで切り直す。今はこの枝の急激な動きが見せ場。今後は上へ伸びるヤゴ芽を主幹に寄り添うようにする、そうすると実のついている枝は不要となるかもしれない。こうした作業を繰り返し、年々樹をよくしていくのが楽しみになる。


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ポイントを決め、全体を整える 大藤久美子


バイカアマチャ コガネシダ 高さ26㎝
添え:ユキノシタ タツナミソウ

飾る前は今の倍近くあった茎を、花が目立つようにせん定している。右へ伸び出し、花を下垂させる枝をポイントとして正面を決め、そこを生かすように全体の姿を整えている。植物は足し算はできないが引き算はできるので、枝にしろ花にしろ、少なすぎるよりはやや多いくらいあったほうが作品にまとめやすい。


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深山の渓谷美 佐藤雄治


ミズナラ ヤシャゼンマイ ダイモンジソウ  陶板:大竹慎一郎 高さ40㎝
添え:アカショウマ マイヅルソウ

瑞々しいグリーンを基調とした一席からは、深山の渓谷美を連想させる。根洗いの前面は苔むして、沢音さえ聞こえてきそうな爽やかな空気に包まれる。前面を横切る幹の扱いは賛否の分かれるところだが、持ち込みの古さ故に個性的な味わいとして見ることもできる。


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空へと伸びるハナノキ 佐藤雄治


ハナノキ 鉢:大竹慎一郎 高さ75㎝
添え:オトコヨウゾメ ナキリスゲ オトギリソウ

イメージは山の中程の左斜面。鉢の左縁から伸びだしたハナノキは、小気味よく曲を刻んで空へと斜上する。葉の量もほどよく、古さと優しさの宿る樹は見飽きることがない。左側は切れ落ちた斜面という設定、添えはやはり右に配し、空へ伸びる幹を強調している。


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(この記事は、発行できなかった「趣味の山野草 2024年2月号」からの抜粋です)


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